文献検索の手引き[初心者編]


似たような情報がWWWで公開されていましたら、是非市川まで御一報下さい。 そちらにもリンクを張ってWebらしく有益な情報源にしたいと思います。

最終更新:2023年4月13日

■ 前書き

ゼミで学生に「サーベイしなさい」と言っても全然やろうとしません(愚 痴です)。「何でやらないんだ」と聞くと「やり方がわからない」と言われま す。世の中にはいくらでも情報源があるわけですが、誰でも最初は戸惑うもの だし、一度は誰かが教えなければなりません。しかし毎年新入生が来る度に同 じことを説明するのも面倒なので、全くの初心者向け文献検索ガイドを書いて みました。対象は計算機科学/計算機工学ですが、他の分野にも応用は効くと 思います。

最近ではonlineで自室から文献検索ができるようになり、大変に便利です。こ れに関しても簡単に紹介します。Internetを経由すると世界中検索できるので、 情報は余るほど手に入ります。WWWは世界に分散する巨大図書館なので、真面 目に検索したら永久にネットをさまよい続けて仕事が進みません (さすらいの ネット・サーファー ;-)。必要最小限の検索を効率良く行ないましょう。

大事なことは、情報の検索というのは自分の手の届く範囲だけやっても完 全ではないということです。あたりまえのことですが、これを自覚していない 学生が多い。インターネットは便利ですが、インターネット上に存在しない情 報だって沢山あります。学生のサーベイ結果などを聞くと非常に不完全なもの が多くて役にたたないことが多いのですが、何故だと問い詰めると「うちの図 書館の本は調べた」とか「Webで検索してもこれしかでてこない」などと言い ます。要するに手間を省くことばかり考えて、目的を達成することを忘れてい るわけです。もちろん現実的制約は存在しますが、せめて基本的な手法くらい は押さえてサーベイして欲しいものです。

逆に言えば、最小の労力で最大の効果が得られる方法が良い方法なのであっ て、手を抜けば結局やり直しになるので時間の無駄になります。そういう意味 でサーベイには技術がありますし、そういう技術には必然性があるのです。マ ニュアル通りにやれと強制はしませんが、結局、マニュアル化された技術と言 うのは面倒なようで近道になることが多いのです(歴史的教訓)。

最近なかなかよい本が出版されたので、参考書として紹介しておきます。

	藤田節子
	「自分でできる情報探索」
	ちくま新書109

この本は新書ですからすぐ読めますし、入手も簡単で価格も安い。基本的 な技術がバランス良く押さえてあって、1997年刊行ですから内容も古すぎると 言うことはありません。

	小林昌樹
	「調べる技術  国会図書館秘伝のレファレンス・チップス」
	皓星社

この本は、どちらかというと文系向きの本ですが、基本的な調査方法とい う意味で理系でも役に立ちます。Googleの利用を前提としていますし、比較的 新しい本(2022)なので推薦しておきます。(情報の鮮度は大事です!)

■ サーベイの基本

サーベイ (survey) とは、元々「見渡す・測量する」ことです。学問上の 意味は「対象分野の研究状況を把握すること」になります。歴史学者でない限 り現在の状況に興味があるので、最近数年間を対象として調べるのが普通です。 以下にサーベイの方法を簡単にまとめてみましょう。

教科書を調べる

該当分野に定評のある教科書があれば、まずそれを読みます。しかし一般 には、教科書レベルの基礎知識の上で最先端の研究状況を把握するのがサーベ イですから、教科書を読むだけでは済みません。良い教科書には研究の現状を 把握するための文献リストが乗っていますから、紹介されている文献を探し出 して読んでみましょう。形式は References (引用文献) だったり Bibliography (参考文献) だったりしますが、どちらもサーベイに役立ちます。 文献を探す方法は後で説明します。

教科書を使ってサーベイする場合、その教科書が新しいものであるかどう かが重要です。教科書は長く使われる場合が多いので、古い教科書では現状に 即したサーベイができません。最新の教科書を使えばいいのですが、良い教科 書を探すには地道に情報を集めるしかありません。先生や先輩に聞くのが近道 でしょう。図書や書店へ行ったり、雑誌/学会誌の新刊案内(Review)をチェッ クするのも良い方法です。文献のReviewだけが出ている雑誌、例えば ACM の "Computing Reviews" なども探すと良いでしょう。

サーベイを探す

誰かが既にその分野をサーベイしていれば楽です。関連学会の学会誌等で サーベイ記事を探してみましょう。しばしば【解説】とか【特集】として掲載 されています。学会誌の原稿ならば内容は充分な水準に達しているので、後は 自分の興味に応じて参考文献のリストを手繰る(孫引きする)と大抵のことはわ かります。

学会誌の他に、サーベイだけが出ているサーベイ誌も存在します。例えば、 ACM の "Computing Surveys" などです。 論文誌にも、サーベイ論文という形でサーベイが載っていることがあります。 ただし余り古いサーベイでは調べる意味が薄れるので、注意が必要です。

関連論文を探す

対象分野の論文を既に幾つか知っているなら、論文のreferencesから孫引 きして芋蔓式に関連論文を探していきます。電子ジャーナルや電子図書館であ れば、論文の参考文献がリンクで提供されている場合があります(楽だ!)。

ある論文が引用している文献は、その論文のreferencesから容易に知るこ とができます。逆に「ある論文を引用している文献を探す」ことは、一般には 容易ではありません。要するに、引用文献欄を網羅したデータベースを引けば 良いのですが、この機能は必ずしも提供されていません。有名なのはThomson ReutersのSCI (Science Citation Index)ですが、有料サービスです。無料で 使えるものは現状では網羅性が低いですが、今後は改善されて行くと思われま す。

何も知らない場合は、分野やキーワードから探し出すことになります。こ ういう時にデータベースが使えれば楽で、極めて効率良く検索できます。 onlineで検索できない場合は、昔の通り索引から探します。雑誌なら通例年末 に総合索引が掲載されるので、それを調べれば1年分まとめてあたれます。い ずれにせよサーベイが発見できない場合は、自分で一つ一つ論文を吟味するし かありません。サーベイがあっても、万能とは限りませんので、やはり一度は 自分で探す必要があります。論文の探し方は以下の章で詳しく述べます。

■ 論文を探す

論文は、主として論文誌 (journal) と予稿集 (proceedings) に出ていま す。この他、会議後に議事録が本にまとめられて出版される場合もあります。 自分の研究分野に関係する雑誌/論文誌/学会等はきちんと把握しておきましょ う。それが研究の第一歩です。

さて論文が雑誌に載っている場合、その雑誌が継続して購読されていれば、 オンラインジャーナルやバックナンバーをあたるだけで済みます。図書館に行 くと部局や大学で定期購読している雑誌のリストがある筈ですから、それに含 まれているか調べます。含まれていれば、書棚か書庫にあります。

身近な図書館に必要な文献がない場合も、簡単に諦めずに図書館の窓口で 相談してみましょう。他所で購読していれば、取り寄せやコピーのサービスが 受けられることがあります。NII (元は NACSIS)webcatを使えば、国 内大学の図書や雑誌の所在はonlineで調べがつきます。文献の入手(貸借依頼) もNACSISではonlineで行なえる筈です。本学の場合、リファレンスデスクで相 談して発注すれば、該当論文の文献複写依頼を出すことができます。

論文の引用文献を探す場合、References欄に必要な情報は全て揃っていま す。従って、問題は『該当する雑誌、予稿集、書籍を探す』ことに還元されま す。書籍の探し方は後でまとめて述べますのでそちらを参照して下さい。

最近の論文にはDOI (Digital Object Identifier)がついていますので、こ の番号が分かっていればDOI systemで該 当論文を捜し当てることができます。

キーワードや内容で検索する場合も、対象が膨大になるのでonlineで検索 するのが一番手軽です。以下に述べるonline reference serviceを使い分ける といいでしょう。

検索のためにデータベースを引く場合、まず適切なデータベースを選ぶ必 要があります。該当分野ごとに定番のデータベースがありますので、周囲の先 輩や先生に尋ねて、あたりをつけておきましょう。大抵の場合、このようなデー タベース検索サービスは、図書館のサービスの一環として提供されているはず です。まともなデータベースは有料なので使用料を払う必要がありますが、文 献検索は研究の基本なのでケチケチせずに払いましょう。本学では、JOIS、 STN、DIALOG、JDream IIなどの有料サービスが提供されています。

online reference serviceの会社でも論文検索をすることができ、手元に ない雑誌でも、PDFやfaxで論文を入手することができます(US数$)。例えば OCLC (Online Computer Library Center, Inc.)FirstSearchや、 IngentaIngenta connect (昔はUncoverというサービスでした)、 IETINSPEC 等が有名です。

取り敢えずabstractだけ読みたい場合は、論文全体が入手できなくても構いま せん(大抵の場合そうです)。一部の学会では無料でAbstractまで検索させて くれます。例えば IEEEIEEExploreIEEE Computer SocietyDigital Libraryでは、 IEEE系のMagazine, Transactions, ProceedingsのAbstractを無料で検索する ことができます(有難いサービスです)。自室で必要かどうか確認してから図書 に実物を探しに行けば良いわけで、大いに手間が省けます。もちろん(有料で すが)全文をネットワーク経由でダウンロードすることもできます。非常に便 利で、慣れてしまえば無しでは済まなくなり、使用料を払っても使いたくなり ます。予算があれば、デジタル図書館を年間契約しておくと、一回一回支払手 続きをする手間が省けます。

ACMportalでも広範な文献検 索が可能ですし、 Digital Libraryでは ACMの出版物をオンラインで提供しています。

各種の学会や研究会、SIGでも、主だったProceedings等をCD-ROMで配布するこ とが多くなっています。これらのCD-ROMの出版状況にも注意しておくといいで しょう。

結局、文献検索に万能な方法はないので、手間暇をかけるしかないのです。 時間と労力を節約するには、最適な有料サービスを選び、要領よく使いこなす のがベストではないかと思います。

コラム: 略号に注意

Q. 著者に Taro Yamada et al.と書いてありました。Et al.さんて誰でしょうか?

A. 著者 "et al" で文献検索してはいけません。これは ラテン語を起源とする略号で、その他 "and others"という意味です。日本語 に訳すなら、「山田太郎ら」となるでしょう。

Q. Referenceを見ていたら、ibid. と良く書いてあります。 Ibid って、雑誌か本ですか?

A. 書名ibidで検索してはいけません。"ibid."は "ibidem"の省略形で、「同書」「上に同じ」というような意味です。 Referenceであるならば、直前のitemと同じ出典(本とか雑誌とか)であること を意味します。ibidemも、et al.と同じくラテン語起源です。

Q. idemというのも分かりません。

A. ibidemと同じで、「同上」です。

Q. pp.ってなんですか?誤植?

A. p.はpage(単数形)の省略形で、pp.はpagesという複数形の省略形です。 だから "p. 10" と1ページの引用なら p. になるし、 "pp. 10-11" と2ページ以上の引用なら pp. になります。

Q. 省略語はいろいろあるんですね。どこかにまとまっていませんか?

A. 全部、英和辞典に出てますよ!辞書をひきましょう!

■ 本を探す

本を探すには図書館です。論文の参考文献を探す場合、Bibliographyに著者・ 出版社など必要な情報は全て揃っています。キーワードや内容で検索する場合 は、対象が膨大になるのでonlineで検索するのが労力の点からも一番でしょう。

最近の図書館は目録を電子化していますので、検索も楽なものです。多く の図書館はInternetからも検索できます。検索して蔵書にあることがわかれば、 借り出して読むことができます。よその蔵書でも本当に必要なら複写を頼んだ り(文献複写依頼)、貸借手続きをして借りることが可能です。

図書館にない場合、読みたければ買うしかありません。日本の本ならば、 書店に行って出版社のカタログを見たり、実物を見たりして内容を確かめるこ とができます。一部の情報が不明でも、大きな本屋に行って分野別の目録や『日本書籍総目録』を調べると大抵わ かります。大きな書店には“取り次ぎ”(日販東販)のデータベースがあって 調べることができます。相談カウンターで店員さんに聞いてみましょう。

WWWで調べたい場合、大手の本屋のページから検索すれば良いでしょう。通 販で買うこともできますから便利です。

洋書についても、インターネットが使えるようになって、非常に便利にな りました。日本の本屋で買えなくても、外国の本屋にWWWで注文することもで きます。少し送料が高くつくのと、クレジットカードが必要になりますが。

新刊をチェックするには、書店で配っている小冊子『これから出る本』を見た り、onlineで提供されている新刊案内を見るといいでしょう。

■ 特許を探す

理工系では、論文と同様に特許を調査する事も重要です。本質的には論文 サーベイと似ていますが、請求範囲を広げたいとか、分割出願しているとか、 特許に固有な事情があって、分かりにくい書き方になっている場合があるので 注意が必要です。

最近の日本の特許/実用新案に関しては、特許庁のデータベースで検索で きます。同様にUSAに関してもWWWで検索できます。他の国を試した事はありま せんが、同様なサービスはあると思います。


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